インクルージョンとインクルーシブな社会

インクルージョンとインクルーシブな社会

東京大学 東洋文化研究所 教授
日本サステイナブルコーヒー協会 理事
池本 幸生

インクルージョン(Inclusion)とは一般に「包み込むこと」を意味し、社会的な文脈で用いられるときには「多くの人を社会に包み込むこと」を意味します。また、「インクルーシブな社会」は、「人々を包み込む社会」を意味します。

では、包み込む対象はだれなのでしょうか。それは「社会から排除された人たち」になります。「排除」は英語で「エクスクルージョンExclusion」であり、インクルージョンの反対語です。社会から排除されて生きていくことは簡単なことではありません。教育の機会、所得の機会、医療サービスを受ける機会、様々な社会的活動に参加する機会を奪われると貧困に陥るリスクが高まります。社会から排除されること、つまり「社会的排除」は、ヨーロッパで貧困を指す言葉として用いられてきました。貧困というと、日本では「働かないから貧しい」という自己責任論が出てきます。しかし、貧困は本人だけの問題なのでしょうか。貧困は社会が真剣に取り組んでこなかったから生まれていると考えるなら、貧困は社会の問題であり、社会が責任を持って解決していかなければならない課題です。

障がい者についても同じことが言えます。障がいを持った人たちが、障がいを持たない人たちと同じように生きていけるような社会にしていくことを「ノーマライゼーション」と言います。公共施設などでバリアフリー化が進められていますが、それもノーマライゼーションの努力のひとつです。障がい者だけでなく、すべての人にとって暮らしやすいように街づくりを設計することを「ユニバーサルデザイン」と呼びます。

障がいがある人と障がいがない人というふうに二つに分けるのではなく、一緒に生活すべきだという考え方を教育の場面で実践しているのが「インクルーシブ教育」です。インクルーシブ教育という言葉は、1994年にスペインのサマランカで開催されたUNESCOの「特別ニーズ教育世界会議」でのサラマンカ声明で用いられ、2006年の国連総会での「障害者の権利に関する条約」採択後、日本では2011年に障害者基本法が改正され、「障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮」(16条)することが求められています。障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と「共に教育を受けられる」ことが重要なのであり、それによって障がい者が健常者と共に生きる環境を整えていくことができます。

写真:コロンビア、フェダール農園(上下とも)

コロンビア、フェダール農園の中には、就学年齢の子供達が勉強する学校と、卒業生が働くコーヒー畑、養豚、陶芸、紙漉きの作業場があり、約130名の障がい者が毎日元気に通っています。この施設は、1980年代障がい児を持つ親が中心となって設立されました。当時のコロンビアでは、障がいを持った子供達は学校に入学することはできなかったからです。コーヒー畑で働く彼らは、みんな元気でとても明るい。彼らの作るコーヒーは、年々品質が向上してきています。

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